掲載時肩書 | 東京エレクトロン元社長 |
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掲載期間 | 2021/04/01〜2021/04/30 |
出身地 | 東京都 |
生年月日 | 1949/08/28 |
掲載回数 | 29 回 |
執筆時年齢 | 71 歳 |
最終学歴 | 国際基督教大学(ICU) |
学歴その他 | 学芸大附属高校 |
入社 | 東京エレクトロン研究所 |
配偶者 | 早大学生交際 |
主な仕事 | 安保デモで留置、米国駐在、合弁、モトローラ品販売、合弁解消でメーカーに、世界展開、取締役会改革、TELユニバースティ開設 |
恩師・恩人 | 小高敏夫 |
人脈 | 古垣鉄郎(従兄)、久保徳雄(仲人)、井上晧、R・エメリック、TSMC張忠謀、伊藤邦雄、M・スプリンター |
備考 | 父:東京芸大教授 |
氏はこの「履歴書」に登場した情報・通信分野の、鈴木幸一(IIJ会長:2019年10月)、小野寺正(KDDI相談役:2020年10月)に次いで、3人目の登場である。半導体装置の輸入商社だった東京エレクトロンをメーカーとして独り立ちし、日本で首位、世界でもトップクラスに引き上げた経緯を語ってくれた。
1.デジタル社会と人間
デジタル技術にどんなイメージをお持ちだろうか。0と1、アルゴリズムが支配するドライな世界?私はそうは思わない。肝は人間の心だ。この技術の威力は大きい。目的と使い方を誤れば、深刻な事態を招く。米国でソーシャルメディアが社会の分断に拍車をかけたのは象徴的だろう。デジタル技術を制御するのは人間であり、有用な道具として生かすには明確な意思がいる。人間そのものが問われているのが実感だ。
2.外国人と付き合う3ポイント
実体験を通じ、私が外国人と仕事をする上で大事だと感じたポイントは3つある。①自分の考えを明確に伝えること、②相手の真意をしっかり理解すること、③自分と相手の意見が食い違い、何とか合意したいと思ったら、絶対に譲れない部分は守りつつ、ほかの部分では譲る度量が必要ということ。そうすれば相手も「フェアな判断」と感じるはずだ。
3.株主重視の真の意味
社長になって、グローバルエクセレントカンパニーを目指し顧客と社員を重視する経営がしたいが、創業者の小高敏夫さんは「会社は株主のもの。別格の存在だ」という。理屈はそうだが、心の整理がつかない。
信頼する半導体製造装置メーカーラム・リサーチ社のCEOロジャー氏に2つの質問をした。
(1)米国の取締役会はCEOとCFOを除くと後は社外の人材が多い。社内の人材が圧倒的という日本の取締役と随分違う。どう思う?―「それはCEO次第だ」とロジャーは言った。たとえ社外取締役が多数派でも、CEOの言いなりという会社が米国でも珍しくない。つまり、社外か社内かは本質ではない。自分が御しやすいイエスマンばかりの陣容にするか、耳が痛いことも忠告してくれる陣容にするか、それを決めるのがCEOの意思であり責任だと。
(2) 米国では1990年代に機関投資家が発言力を増した。経営に役立っているの?―ロジャーが答えた。「機関投資家も一様ではない。大きく2種類だ」。短期で株を売り買いし儲けたがるタイプがいる一方で、中長期にわたって会社を見守り、経営者に意見を言うタイプもいる。その見極めが大切だと。
4.取締役会改革
社長になって1998年、取締役と執行役を分けた。このころの日本ではまだ珍しかった。取締役は原則としてシニアで固めた。製造子会社の会長や、私より世代が上の取締役経験者。私に率直な意見を言える人たちだ。対照的に執行役は若手をそろえた。製造子会社の社長や、事業部門のトップなど私と同じか下の世代だ。会社の文化を継承しつつ、新しい発想でグローバル化に挑める。そんな体制にしたつもりである。
同じタイミングで報酬委員会とストックオプション制度を導入した。日本の上場企業の先駆けだ。社長就任後も自社株をそれほど多くは持ってはいなかった。株はなくても会社に尽くせると考えていた。すると米国のアナリストから「信念もいいが、それで株主と利害が一致すると思うか」と言われ、ならば株価と報酬を連動させようとストックオプション制度に行き着いた。
指名委員会の設置は2000年、最大の特徴は社長をメンバーにしないことだった。理由は、いざとなれば社長を辞めさせるのも指名委員会の仕事である。トップの暴走を食い止めるのだ。社長がメンバーでは機能しない。もちろん次代を担う人材の育成に社長は大いに責任がある。だがトップを選ぶ過程は透明、客観的でなければならない。私はそう信じる。